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The tale of Mejiro McQueen

メジロマックイーン物語『栄光と挫折は紙一重』 - 第五章 「意地」

 天皇賞春を制したマックイーンは、圧倒的ファン投票一位に推されて宝塚記念へ向かう。
 この年の宝塚記念はグランプリレースという言葉の重みに反して、出走馬の多くはマックイーンと勝負付けが済んでいる馬ばかりで、焦点は「マックイーンがどんな勝ち方をするか?」の一点に絞られていた。
 そんなマックイーン一色ムードに牙をむく男がいた。メジロライアンの主戦、横山典弘である。

 常々「僕の馬が一番強いんだ!」とライアンを評価していた横山にとって、ライアンがいまだにGI のタイトルに手が届かないことは受け入れがたい現実だった。
 さらに横山はある日の美浦トレセンで、偶然、こんな話を耳にしてしまう。

「ノリ(横山典弘)じゃライアンは勝てない。宝塚記念で負けたら、岡部(幸雄)騎手に乗り替わるらしい」
 傷ついたプライドを抱えながら横山典弘は誓った。
「僕がライアンを一番よく知っているんだ。中距離じゃ絶対に負けない。絶対に……」
 この年の宝塚記念は阪神競馬場が改修工事のために、京都競馬場で行われる。
 これまでの京都競馬場 芝2200Mのレコードは2分12秒3。そこにはメジロライアンと横山典弘の名がしっかりと刻まれていた。

「今年もあなたの、そして私の夢が走ります。あなたの夢はメジロマックイーンかライアンかストーンか。私の夢はバンブーです」
 毎年お馴染みの杉本清節でレースははじまる。
 マックイーンは終始外目の5,6番手を追走する。ホワイトストーン、メジロライアンの両馬がマックイーンを見ながらという形はいつもの光景。
 だが勝負どころで異変に気が付いたスタンドから、どよめきが起こる。

 第3コーナーののぼりで、ホワイトストーンとライアンがマックイーンより先に動き出す。特にライアンの動きにスタンドが敏感に反応する。
 ホワイトストーンは先行策でのレースを何度かしているが、ライアンは豪脚を生かした末脚勝負が持ち味だとファンの誰もが知っている。
 そのライアンが先行策に打って出たのだ。

「いくらなんでも早すぎやしないか?」
 不安が渦巻く中、レースは4コーナーの下りを迎え、ライアンが敢然と先頭に立つ。
「この距離では負けられないかライアン!」
 横山典弘は無我夢中に手綱をしごいた。早く動きすぎてライアンが止まるかもしれない。そんな不安をかき消すように、ライアンを信頼してただただ前へと手綱を動かした。
 グングン加速していくライアンとは対照的に、マックイーンの反応は鈍かった。残り100を切ってようやく後続を振り切りライアンを追うが、もう既に追い付けるような時間と距離は残されていなかった。

「ライアン! ライアンだ! レコードホルダー! この距離では負けられない!! 横山典弘とメジロライアンです。2着はマックイーン。2着にメジロマックイーン」
 派手なガッツポーズを横山典弘は何度も何度も繰り返した。そして何度も何度もライアンの首筋を撫でた。
「やっぱりライアンは強いだろ?」
 ライアンの力と可能性を信じ抜き、そして選んだあっと驚く先行策。
 横山典弘は満面の笑顔を見せながら堂々と胸を張った。

 マックイーンと武豊も、黙って「今日はライアンが強かった」と相手を称える他なかった。
 リベンジは秋の舞台で。
 だがこの時から、彼らの歯車が少しずつズレ始めていたことに気が付いている人間はいなかった……。

第四章 「盾獲り物語、第三幕」

第五章 「意地」

第六章 「失意と挫折のとき」

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