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The tale of Mejiro McQueen

メジロマックイーン物語『栄光と挫折は紙一重』 - 第十章 「陽はまた昇る」

 前年の宝塚記念と有馬記念を制したメジロパーマーは実に力強い馬に生まれ変わっていた。
 メジロパーマーの馬生は実にウィットに富んでいる。3歳時(現2歳)に2勝したかと思えば、そこから11連敗。5歳(現4歳)になり500万条件を勝ち、ようやく連敗を脱出させると、返す刀で札幌記念(当時GⅢ)を900万の身ながら制してしまう。

 しかしながら「いよいよ本格化?」と思わせたのもつかの間、またも連敗が続き、この年の暮れには遂に障害を走らされることになる。だが初障害で勝利を挙げたものの、「飛越が危険」とわずか2戦であっさりと障害を断念。
 この時の障害訓練が後のパーマーの活躍に繋がってくるのだから、世の中何が幸いするか分からない。世紀の大一番で先導役を務めたメジロパーマーは、新潟大賞典で二つ目の重賞を獲得すると、宝塚記念で初のGI 奪取に成功する。この一連の活躍を、障害練習で腰が鍛錬された成果だと分析する人は多い。

 そんなメジロパーマーの強靭な粘り腰のハイライトシーンは、93年の阪神大賞典だろう。
 ナイスネイチャが1番人気に推され、続く2番人気も武豊が跨る前年のエリザベス女王杯馬タケノベルベットが押さえる。メジロパーマーは春秋グランプリ制覇を果たしたにも関わらず、依然その力を疑問視され3番人気の評価に甘んじていた。

 しかしレースはメジロパーマーの強さばかりが際立つ展開となる。レース序盤から早いペースで引っ張り続けるパーマーを見ながら、ナイスネイチャはいつでも交わせる手応えでレースは進んだ。勝負どころから4角にかけてナイスネイチャがパーマーを目指して動きだすと、それをマークするようにタケノベルベットと武豊も、まくり気味に進出してパーマーのすぐ後方に迫る。
「ああこの2頭で決まりだ」
 だがそこからパーマーとの差はなかなか詰まらない。必死の形相でパーマーに追いすがるナイスネイチャとタケノベルベットだったが、残り150で先にナイスネイチャの脚色が鈍り始める。そして残り100を切り遂にタケノベルベットも白旗を揚げる。

 この時のパーマーの強さを感じた武豊が、後の天皇賞で厳しい選択に迫られたことは言うまでも無い。何せ13秒台に一度しか落としてない馬が、直線残り400地点からの1ハロンで12.3という脚を見せたのだ。早いペースで逃げてる馬が、バテずに最後までしっかりと伸びきるとしたら。後続の騎手たちにとってこれ以上嫌な相手はいないはず。メジロパーマーは稀代の逃げ馬という枠から、最強馬のカテゴリーに足を踏み入れようとしていた。

 1993年6月13日。阪神競馬場はどんよりした雨雲に覆われていた。
 激戦の反動から休養に入った天皇賞馬ライスシャワーの姿がない宝塚記念は、『メジロ記念』と揶揄されていた。1番人気、そして3年連続ファン投票1位のマックイーンと、ようやく実力を評価され2番人気になったパーマーとのメジロ同期生対決。
 実績を考えればマックイーンが断然なのだが、天皇賞でのショッキングな敗戦がパーマーへの追い風と勢いになっていた。

 逆風の中でマックイーンと武豊は静かに思いを馳せていた。パーマーの力は知っている。しかしどうしても負けられない理由がある。ライスシャワーにもう一度リベンジするまで、苦い思い出しか残らない秋への雪辱に向けて、そして王者の威厳を保つため、ここで負けることは許されない。負ければすべてを失いかねない。

 口を真一文字に結んだままにマックイーンの背にまたがった武豊は、悲壮な決意を持って『メジロ記念』に挑んだ。
 だが悲壮な覚悟が歓喜に変貌するまでの時間はそうかからなかった。

 スタート直後から馬場の悪い内目を避け、外へ外へとマックイーンを運んだ武豊が3コーナーで早々とパーマーを捕まえにかかる。すると、あろうことか見る見るうちにパーマーの手応えがなくなり、何の抵抗も見せられぬまま馬群に飲まれてしまう。
 ここ数戦の力強さをまったく見せないままにあっさりと白旗を掲げたパーマーに、杉本アナも思わず声を詰まらせる。
「おっパーマーを交わして早くもマックイーンか。マックイーン早くもパーマー交わすか。パーマーピンチか!? 山田泰成の手が動いてる。あっ……も……もっ……もう右鞭さえ飛んでいる。パーマーピンチ」

 沈み行くパーマーの姿を横目でちらりと確認すると、すぐに視界をマックイーンの鬣越しに広げ、ただゴール一点だけを見据えて武豊は鞭を構えた。
「マックイーン来た。マックイーン来た。マックイーン先頭か。マックイーン先頭か。マックイーン初めての宝塚記念を制するか」

 手綱を通して伝わってくる力強い躍動感と息吹き。マックイーンは決して衰えていない。これが本当のマックイーンなんだ。ゴール板を誰よりも早く駆け抜けたマックイーンの鞍上で武豊は派手なガッツポーズを何度も見せた。強いマックイーンが帰ってきた喜びを、武豊の身体が表現していた。 「ここまで立ち直ってくれたことが本当に嬉しかった」

 これでマックイーンは4年連続となる4つ目のGI 制覇。獲得賞金もオグリキャップを抜き史上初の9億円馬に。またメジロ牧場もライアン、パーマー、マックイーンと3年連続の宝塚記念制覇となった。
 しかし陣営の視線は過去の偉業にはなく、来たるべく明日の舞台にあった。
「秋にもう一度、あの馬(ライスシャワー)とやりたいですね。そして、マックを最強馬と誰もが認めてくれるレースをしたい」
「秋は今まで逃したタイトルを目標にゼロから再スタートします」

 2年越しとなる雪辱の秋へ、先を見据える眼はリベンジに燃えていた。

第九章 「斜陽」

第十章 「陽はまた昇る」

第十一章 「最後の舞台」

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